
このお厨子にもご縁があり、嫁いで行きました。
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昨年の後半から今年の前半に掛けて、お厨子造りに集中しておりました。
横浜高島屋美術画廊での展覧会に向けて全身全霊を掛けた取り組みでもありました。
長年温めてきたイメージは、お厨子の「意匠を検討する」ということではなく、樹の裁断面である「木目」に向き合い、そこから何を感じ取り、どうしたら樹の命に向き合うことが出来るのか?とうことでもありました。
物を造るということはどうしても意匠(デザイン)を工夫するという方向に行きがちな面がございます。
もちろん、それが無くては形になってゆきませんので、無用で有る筈はないのですが、それ以前の原点として「樹に出会う」ところに今一度立ち戻るという作業から始めるということでもありました。
幾つも立ち上がってくるイメージを整理し、二つのシリーズに収斂してゆきました。
【神代楡 厨子 天国への階段】と【神代楡 厨子 ゴシック 紬】です。
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【神代楡厨子 天国への階段】
神代楡の盤(厚い板)を挽いていたら変化のある面白い木目を見つけました。
くねっとカーブしているようです。
板を横向に置いたら風景が浮かび上がってまいりました。
雲海?・たなびく雲?・砂丘?・・・などなど、色々な景色が見えてきました。
そこに一本の梯子を掛けてみました。
天へ昇ってゆくキザハシです。
【お厨子「天国への階段」】の誕生です。
彫り込んだ階段は神代欅材を使い、手掛けを兼ねています。
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【神代楡厨子 ゴシック 紬】
使用材は北海道産で樹齢数百年の神代楡(ニレ)の外側部分(樹齢を重ねた外周部)を切り取り、真柾目を狙って鋸を入れて挽き「斑・フ」を拝み取りしました。
私は「樹木にも命が宿る」とする日本人の世界観を大切に感じています。
真柾目に挽いた時だけ、紬のような着物の織り柄に見える「斑」が出るのが楡材の特徴、その斑が濃い色に染まっているのも神代木の特徴です。
全体の意匠はシンプルに徹し、装飾を排し、木肌の色合いと斑の景色を楽しんでいただけたらと思っております。
扉中央部に中世欧州の教会堂のようなゴシックアーチを深く彫り込みました。
このお厨子中では珍しく意匠的な部分ですが、これは手掛けを兼ねています。
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※内陣背面は京都西陣に依頼しております「金銀箔砂子蒔き」で宇宙を表しております。
厨子の扉を開けるとそこは広大無辺なる宇宙への入り口であると想定しております。